新規事業の責任者を任されそうなときに、上長に要求すべき3つのこと。 | フィリピンで働くシリアル・アントレプレナーの日記

新規事業の責任者を任されそうなときに、上長に要求すべき3つのこと。

組織がある程度できあがっている会社で、新規事業の責任者になりそうな場合に、上長に要求すべき3つのことを、下記まとめた。
1. 部下の個人目標の管理をアバウトな運用にさせてもらう
2. 事業目標を営業利益や売上高以外で直近は設定させてもらう
3. 個別の支出の説明責任は、事後にのみ求める運用にさせてもらう

 

1. 個人目標の管理について

ちゃんとした組織である以上、人事制度が普通はある。

多くの場合はMBO、Management by Objective、つまり目標管理によって社員をマネジメントしている。
これは、ある程度大きくなっている事業にはイイ。一人一人の社員が、その能力や役割に応じた目標を持てば、同じ方向向いて頑張ってもらえやすい。

だが新規事業だとそうはいかない。むしろ害悪になることが多い。

なぜなら、そもそも事業目標の指標も水準も最初は不透明。事業目標を分解し個人目標に落とせばさらに不透明になる。結果、達成してもしょうがないものを達成しなければ部下は評価されなくなりがち。最悪の場合、新規事業のメンバー間で目標が衝突し、思わぬ対立を招く。
だいたい、ベンチャー立ち上げの時期には社員個人の目標管理なんてない。ない方が圧倒的にうまくいく。事業全体が成功しないと会社も社員も離散。社員は必要なことを自分で考え、柔軟かつ同じ方向を向いて頑張ってくれる。
しかし、出来上がった組織には個人目標の管理は必要。そして一部の部署のために全体の制度を変えるのは現実的ではない。

だから運用でカバーさせてもらう。新規事業部門の個人目標管理はアバウトでいい。極論、新規事業メンバー全員の個人目標は事業目標と同じものが1つのみあれば良いのではないか? それでサボるようなメンバーであれば、そもそも新規事業の部署からは外すべき
 

2. 事業目標について
新規事業は最初は損失しか生まない。だから事業目標を最初から営業利益に置くと、何もしないことが最適解になりがち。
だからといって売上を事業目標に置くのも早計。基本的には下記の順で置く。
a) 最初に目標としておくのは、お客様の満足度。NPSや継続率で測る。お客様が必要としないものは通常いくら頑張って売ろうとしても無駄。狭い意味でのプロダクト・マーケット・フィットの達成をまず目指す。
b) お客様の満足度が一定以上確保できた事業で次に置くべき目標は、ユニット・エコノミクスの成立。一定の満足度を提供するために必要な変動費はいくらで、そのお客様を確保するのに必要なCPA, Cost per Acquisitionはいくらか。それら費用をまかなうのに必要なLTV、Life time valueはいくらか。つまり、月額顧客単価や継続月数はどれくらいか。それらの数値を、実際に市場にサービスを提供する中で検証し、売れたら利益が出ることを確認する。
c) ユニット・エコノミクス成立後におくべき事業目標は、供給プロセスにおけるボトルネック解消。個人技に頼らないとスケールしない事業は通常スケールしない。パーキング・ブレーキをかけたままアクセルを踏み込むのはよろしくない。
d) ボトルネック解消後におくべき事業目標は、トラクションの獲得。単にAdwordsに資金投下していれば伸びる事業であれば色んなチャネルを試す必要はないが、たいていそういうわけにはいかない。様々なチャネルの中から、一定の金額内で一定の顧客数を獲得できるものを見つける必要がある
e) 以上を達成した後に初めて、売上を事業目標にすべき。

f) 営業利益を目標に置くのは、成長スピードが早い事業の場合は慎重にすべき。「何もしないのが最適解」という縮小均衡を招いてしまいかねないから。

以上のa)-f)は、必ずしも順々に取り組むものではない。特にc)とd)などは同時並行で取り組んだ方がいい場合もある。だがステップを飛ばしてはいけないことは確か。飛ばしてしまうと、かえって売上が伸び悩む。

お客様が必要としてないものを無理に売ろうとしていないか。売っても売っても赤字になってしまわないか。売れば売るほど組織が崩壊し顧客満足度が下がっていかないか。目標通りに売ろうにもどう売ればいいか具体的な施策がないものになっていないか?事業目標の設計は慎重にしたい。

 

3、個別の支出の説明責任について
事業目標に営業利益は当面置けないとしても、損失額は一定範囲に収めなければいけない。
だから支出を総額で管理するのはもちろん必要だ。それでは支出の個別管理はどうするか。

出来上がった組織の場合、支出は個別にも通常は管理する。
xx円以上の支出の場合、その都度「なぜこの支出が必要なのか?」をりん議で通す、などだ。
これは成熟した・しかけた事業では必須だしうまくいく。
だが、新規事業ではりん議は不要というか害悪だ。
りん議が回ってきても、事業責任者以外は妥当性を判断しづらい。

判断できない上長を説得するために、事業責任者は相当量のコミュニケーションを取らなければいけない。

でもそんなコミュニケーションを都度取っていたら、スタートアップにスピードで圧倒的に負けてしまう。

(りん議をしているスタートアップなんて聞いたことがない)
とは言え、一部の部署のために制度を変えるのは非現実的。

だから、個別の支出は説明責任を事後でよいとする運用が必要。
すなわち、よほど変な支出でない限り、事業責任者の上長は腹をくくって承認すべきということだ。

それでうまくいかないような信頼関係しかできていないのであれば、そもそも事業責任者に任命すべきでない。
 

新規事業の責任者を任されそうな場合に、以上の1-3を上長に要求すべきと思う。

それは責任者を任されるあなたのためだけではない。新規事業というハイリスクに挑む会社に対して、ハイリターンをもたらすためだ。

 

(以上は様々な成功・失敗を元にした個人の見解です。所属する組織の見解とは何ら関係がありません)